アルコールの消化管への影響

アルコールはほぼ全ての消化管に影響します。したがって、不適切な飲酒は、食道と頭頸部のがんや胃食道逆流症、マロリーワイス症候群、胃がん、結腸直腸がん、門脈圧亢進症などのさまざまな疾患や症状の原因となります。

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1. 食道と頭頸部(口腔・咽頭・喉頭)のがん

日本の食道がんと頭頸部がんは多発したり重複したりする傾向が著しく、飲酒・喫煙が2大危険因子です。男性の食道がんでは、たとえ少量であっても飲酒自体が発症リスクを上げてしまうことが報告されています[1]。特に、2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の働きが遺伝的に弱く、ビールコップ1杯程度で顔が赤くなる体質の人が純エタノール換算で46g以上を常習飲酒すると、発がんリスクが著しく高くなります[2]

2. 胃食道逆流症(GERD)と短いバレット食道(SSBE)

胃液が食道に逆流して胸焼けを起こす胃食道逆流症(GERD)や、その繰り返しで食道の扁平上皮が円柱上皮に変化するバレット食道も飲酒と関連しています。日本では縦径3cmを超えるバレット食道は0.2%程度と稀ですが、5~10mm程度の短いバレット食道(SSBE)が多く、アジアや日本の研究では、飲酒とGERDやSSBEの関連がほぼ一貫して報告されています[3]

飲酒は食道と胃の間の括約筋をゆるめ、多量飲酒により胃の逆蠕動も起きます。激しい嘔吐の繰り返しで下部食道に裂創が生じ、鮮血を吐血するマロリーワイス症候群(Mallory-Weiss syndrome)も、多量飲酒が主たる原因です。

3. ピロリ菌、胃がんとの関連

アルコールには殺菌効果があるためか原因ははっきりしませんが、飲酒者のピロリ菌感染率は非飲酒者より若干低いことが報告されています。24の研究のメタ解析では、飲酒家ではピロリ菌感染のオッズ比が17%低下していました[4]。では飲酒が胃がんのリスクを下げるかというと、その逆で、症例対照研究の50%以上が飲酒と胃がんの関連を支持しています。2021年に報告された日本の6つの大規模コホート研究の25万人強のプール解析でも、多因子で補正した胃がん発生のハザード比は男女とも1日23g以上の飲酒で増加し、1日10g当たりの飲酒量の増加につき男女とも2~3%程度ハザード比が増加しました[5]

また、ALDH2の働きの弱いタイプの人の飲酒が胃がんのリスクを高めることも日本の研究を中心に示されており、2018年にWorld Cancer Research Fund (WCRF)は、胃がんを「アルコール関連がん」に認定しています。

4. 胃切除とアルコール依存症との関連

胃切除は飲酒家がアルコール依存症を発症するリスクを高めます。日本のアルコール依存症患者では胃切除の既往の頻度が高く、4,879例の上記横断研究では1996~2000年は13.3%、2001~2005年は10.5%、2006~2010年は7.8%と漸減傾向ですが、未だに高い既往率です。62%は消化性潰瘍、37%は胃がんが胃切除の原因でした[6]

胃を切った人ではアルコールの小腸への移行と吸収が早まり血中濃度が急上昇し、ビール350mL缶の血中濃度は約2倍になります。胃切除前は普通の飲酒家だったのに、胃切除後に短期間でアルコール依存症を発症したと考えられる人が多くみられます。胃を切った人は飲みすぎに気をつけましょう。

5. 大酒家の急死と消化管症状

アルコール依存症患者は自宅で急死して発見されることが非常に多く、剖検では脂肪肝しか目立つ所見がないこともしばしばです。東京都監察医務院の検討では、食事摂取が極端に減少した状況下で飲酒し続け、脱水、アルコール性ケトアシドーシス、アルコール性低血糖などの重大な代謝障害で死亡する「大酒家突然死症候群」が大酒家急死例の一群にあるとしています。

国立病院機構久里浜医療センターの検討では、アルコール依存症の離脱期の検尿では34%にケトン体が検出され、アルコール離脱症状とともに、ケトン体がたまることが食欲不振や嘔気で食べられなくなる原因の一つです[7]。また2.5mEq/L未満の低カリウム血症で、倦怠感や低カリウム性筋炎を合併して受診する患者が多く、食べないことに加え、飲酒に伴う水様下痢をしばしば伴っています。アルコール依存症の小腸では絨毛の数が減少し形態異常もあり吸収障害が起こりますが、下痢しながら飲み続けると重篤な低カリウム血症から心室細動などの不整脈で急死するリスクが高まります。

6. 結腸直腸腫瘍

飲酒は摂取量に依存的に結腸直腸の腺腫とがんのリスクを高めます。世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は2007年の会議で結腸直腸がんが飲酒を原因として発生する十分な証拠があると結論づけました。結腸直腸がんは罹患数が多いので、飲酒量減少への介入により予防される実数は大きいと推測されます。日本の5つのコホート研究のプール解析では、飲酒による結腸直腸がんリスクは1日エタノール換算23~46g(日本酒換算1~2合)未満で1.42倍、46~69g未満で1.95倍、69~92g未満で2.15倍、92g以上で2.96倍であり、男性の結腸直腸がんの1/4は1日23g以上の飲酒に起因していました[8]。欧米の研究と比較して、日本人では飲酒の影響が強い可能性が指摘されています。

7. 門脈圧亢進症

胃腸から吸収された栄養は門脈という太い血管に集まって肝臓へ運ばれます。アルコール性肝障害が進行すると、門脈血流の流れに抵抗が発生し、肝臓を迂回するバイパス血管が発達します。その結果、消化管では食道静脈瘤、胃静脈瘤、痔(直腸静脈瘤)のほか、胃粘膜がむくんで出血しやすくなる門脈圧亢進性胃症が悪化します。

(最終更新日:2025年9月1日)

横山 顕 よこやま あきら

独立行政法人 国立病院機構 久里浜医療センター 臨床研究部長

静岡県出身。1985年慶応義塾大学医学部卒業、内科医、博士(医学)。30年以上アルコール離脱期病棟の担当医として勤務。2004年より現職。アルコール依存症の臨床と研究が専門。

参考文献

  1. Ishiguro et al; JPHC Study Group: Effect of alcohol consumption, cigarette smoking and flushing response on esophageal cancer risk: a population-based cohort study (JPHC study). Cancer Lett. 2009; 275(2): 240-246.
  2. 横山顕. 食道扁平上皮癌の危険因子と頭頸部癌・胃を含むfield cancerization. 日本消化器病学会雑誌, 2018, 115: 868-880.
  3. Matsuzaki et al., Association of Visceral Fat Area, Smoking, and Alcohol Consumption with Reflux Esophagitis and Barrett’s Esophagus in Japan. PLoS One, 2015; 10: e0133865.
  4. Du et al., Association of alcohol drinking and Helicobacter pylori infection: A meta-analysis. J Clin Gastroenterol, 2023; 57: 269-277.
  5. Tamura et al., Alcohol intake and stomach cancer risk in Japan: A pooled analysis of six cohort studies. Cancer Sci, 2022; 113: 261-276.
  6. Yokoyama et al., Trends in gastrectomy and ADH1B and ALDH2 genotypes in Japanese alcoholic men and their gene-gastrectomy, gene-gene and gene-age interactions for risk of alcoholism. Alcohol Alcohol. 2013 Mar-Apr;48(2):146-152.
  7. Yokoyama et al., Alcoholic Ketosis: Prevalence, Determinants, and Ketohepatitis in Japanese Alcoholic Men. Alcohol Alcohol, 2014; 49: 618-625.
  8. Mizoue et al., Alcohol drinking and colorectal cancer in Japanese: a pooled analysis of results from five cohort studies. Am J Epidemiol. 2008 Jun 15;167(12):1397-1406.