口腔の疾患は様々な全身疾患と関連していることが報告されており、口腔の健康状態は全身的な健康状態と密接な関連があります。そのため、口腔の健康状態を維持、改善するための歯科治療は、全身的な健康状態の維持にとって欠かせないものと考えられます。
代表的な口腔の疾患にはう蝕(むし歯)と歯周病があります。特に歯周病は様々な全身疾患と関連していることが報告されています。なかでも歯周病と糖尿病との関連はエビデンスが高いものとして知られています[1][2]。
糖尿病は糖代謝異常により高血糖状態となる代謝疾患であり、国内の患者数が多い疾患の一つです。糖尿病の主な合併症には、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害などがあります。また、糖尿病による免疫機能の低下から易感染性(感染しやすい状態)となることで歯周組織の炎症が進み歯周病が悪化することから、歯周病は糖尿病の合併症としても認識されています。多くの疫学調査は、糖尿病患者の歯周病が進行していることを示しており、また歯周病のある糖尿病患者に歯周治療を行うことで、血糖コントロールの指標となるHbA1cに改善が見られることから、歯周病と糖尿病との間には双方向的な関連があるといわれています。日本歯周病学会による「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン」は、糖尿病がある歯周病患者に対して歯周治療を行うことは、血糖コントロールの改善効果があるため歯周治療を強く推奨しており、歯周治療によって歯周状態が安定しても定期管理を行う間隔を糖尿病ではない人よりも短くすることを推奨しています[1]。また、日本糖尿病学会が発行した「糖尿病診療ガイドライン2024」でも、2型糖尿病患者に対する歯周治療は血糖コントロールに有効であることから、糖尿病患者への歯周治療を推奨しています[2]。糖尿病患者に対して歯周治療を行うことは、歯周病の改善だけではなく糖尿病のコントロールにも有効であると考えられます。
その他にも、歯周病は、心疾患や慢性腎臓病、呼吸器疾患、骨粗鬆症、関節リウマチ、悪性新生物(がん)、早産・低体重児出産など、様々な全身疾患と関連していることが報告されています。それらのなかにはエビデンスが十分ではないものもありますが、いずれにしても、歯周病を治療することにより口腔の健康を維持することは、全身の健康維持にとっても重要であるといえるでしょう。
日本人の死亡のうち、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病による死亡は、死亡全体の半数以上を占めています。生活習慣病は、その名の通り、食生活、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの日ごろの生活習慣が原因となって起こる様々な病気のことをいい、生活習慣病の発病や悪化に関係する好ましくない習慣は、生活習慣病のリスクファクター(危険因子)と呼ばれています。

う蝕や歯周病などの口腔疾患は歯磨きなど口腔清掃習慣の影響を強く受けますが、食生活や喫煙など全身の生活習慣病と関連の深い生活習慣の影響も受けており、生活習慣病と多くのリスクファクターを共有しています(コモンリスクファクターの概念)【図】[3]。う蝕や歯周病を予防し健康な口腔状態を保つためには、口腔を清潔に保つだけではなく、食生活の改善や禁煙なども重要な要素であり、そのことは全身の健康維持にもつながります。
高齢者では、う蝕や歯周病などによって多くの歯を失うことで咀嚼機能や嚥下機能といった口腔の機能が低下し、食生活に支障をきたして十分な栄養が摂れなくなると低栄養のリスクが高まります。高齢者の低栄養は、筋肉量の減少によるサルコペニアやロコモティブシンドローム(運動器症候群)につながり、要介護となるリスクを高めます。そこで、高齢者の口腔機能低下のリスクに対応するために、咀嚼機能や嚥下機能などの口腔機能の状態を評価する口腔機能検査が、歯科医療機関や後期高齢者の歯科健診で広く行われるようになっています。検査の結果から、複数の口腔機能に低下が認められる場合は口腔機能低下症と診断され、管理計画のもとで口腔機能低下症の管理が行われます[4]。口腔機能の低下を招かないように、適切な歯科治療や口腔機能を維持するためのトレーニングを行うことで、口腔機能の向上を図り、全身の健康維持に努めることが望まれます。
(最終更新日:2026年2月2日)