保護者の方に知っていただきたいこどもの近視予防対策

近視とは、眼に入った平行光線が、網膜より手前で焦点を結ぶ状態です。近視の多くは、こどもの頃に、眼球の前後方向の長さを表す眼軸長(がんじくちょう)が、正常よりも過剰に伸びることで生じます。眼軸長(がんじくちょう)が伸びるほど近視が強くなり、一度伸びると縮めることはできません。近視の自然な進行は大学時代まで続くこともありますが、悪化のほとんどは 8~12歳で起こります。近視の進行が最も速いのは7~10歳であり、10歳以下の年齢が低いうちに近視を発症すると、近視が強度になる確率が上がります。近視が強度になるほど、将来、さまざまな目の病気にかかる頻度が高まります。幼児期のうちから近視予防を意識した対策を行いましょう。目を細めたり、テレビ画面に近づいて見るようなことがあれば、早めに眼科を受診して、近視になっていないか確かめましょう。近視の場合は、できるだけ早期から近視の進行を抑制することが理想です。

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こどもの近視の実態

こどもたちを取りまく生活環境の変化によって、世界的に近視人口は増加傾向にあります。裸眼視力1.0未満のこどもの全てが近視であるとは限りませんが、そのうち、約8~9割は近視であることが指摘されています。日本では学童近視の有病率は不明ですが、裸眼視力低下の推移から、近視は約40年前から増加し続けていると推察されております(図1)。このため、2021年度から児童・生徒の近視実態調査事業が文部科学省主導で開始され、全国約9千人の児童・生徒を対象に、眼軸長(がんじくちょう)屈折値(くっせつち)(近視の強さ)の計測が行われました。

図1.「裸眼視力1.0 未満の者」の割合(文部科学省「令和5年度学校保健統計」より)

「裸眼視力1.0 未満の者」の割合

ご家庭でできる対策

近視の発症には、長時間の近業(きんぎょう)(近くを見る)作業の増加と、屋外活動の減少が影響していると考えられています。

①屋外活動の確保

屋外活動は、近視の発症を予防することが科学的に証明されています。効果的な成果を得るためには、1日2時間の屋外時間を確保することが望ましいです。屋外活動は、年齢が低い幼児や小児ほど重要な対策です。例えば、休み時間はなるべく外に出る、屋外のスポーツに親しむなど、短時間の屋外時間の組み合わせでも問題ありません。2020年の新型コロナウイルス感染症に対する自粛政策を契機に、屋外時間は大幅に減少しています。意識的にベランダや庭で過ごすことや、公園に散歩に出かけるなどの工夫が必要です。

近視予防に有効と考えられる屋外照度は、暗そうに見える木陰や建物の影、曇りの日に得られる程度の明るさ(1千~3千ルクス以上)でも十分です。こどもたちに小型の照度計をつけさせ、実際の数値を確認することで、具体的な目標がわかり、モチベーションにもつながります。夏の天気が良い日は、帽子やサングラスを使用しても、目の周りには近視予防に十分な光は確保できます。熱中症や紫外線対策を十分に行って、安全に屋外活動を実施しましょう。

②近業の管理

保育や学校現場に十分な屋外活動時間を確保する対策を国家規模で行うことで、近視の低年齢発症を阻止することに成功してきた海外の国々においても、ここ数年間、近視が増加しており、その原因は、過度な近業(きんぎょう)(近くを見る)作業の増加、と考えられています。従来の紙やペンでの近業(きんぎょう)以外に、スクリーンタイム(電子機器の画面を見る時間)の影響も懸念されています。どのように対策を行うべきでしょうか?

従来の紙やペンであろうが、電子機器を用いた近業であろうが、近業を行うときは、30cm以上離してものを見ること、30分以上連続して近くを見続けないことが重要です。学校の授業では、黒板を見ることが多いため、あまり問題がありません。また学校の授業がICT機器を用いた授業に変わっていたとしても、手元のスクリーンばかりを見続けることにならないよう、配慮がなされています。しかし自宅や塾での近業(きんぎょう)は、視線を遠くに逸らすことがほとんどありません。20分に1回、20秒以上、20feet(約6m)遠くを眺めるようにすること(3つの20と覚えましょう)を意識的に行い、近視予防に努めましょう。

③スクリーンタイム(電子機器の画面を見る時間)

スマートフォンなどの携帯小型機器を使用した場合、視距離は20cm未満まで近くなります。20cmを切るような近業(きんぎょう)は近視の発症を高めることが示されています。電子機器で作業をする場合は、テレビや大型の画面に映して行ったほうが安全です。正しい姿勢で、使用する機器の輝度を教室や部屋の明るさに合わせて適切に調整しましょう。また就寝前1時間は、デジタル機器を使用しないように心がけましょう。

日本眼科医会が、こども向けの啓発マンガのポスターやリーフレットを制作しています(図2)。これらから、こどもたち自身が眼を守る使い方、環境の改善方法を学ぶことが重要です。

図2.「近視啓発動画 進む近視をなんとかしよう大作戦」(提供「公益社団法人 日本眼科医会」より)[3]

近視啓発動画 進む近視をなんとかしよう大作戦

【リンク紹介】

五十嵐 多恵

五十嵐 多恵 いがらし たえ

東京都立病院機構 広尾病院 眼科医長/東京科学大学 眼科学 非常勤講師

博士(医学)、金沢大学医学部、東京医科歯科大学眼科、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科病院 網膜フェロー、東京医科歯科大学眼科 講師(キャリアアップ)を経て、2024年より現職。成人以降の病的近視による眼合併症の管理、小児期の近視予防対策、近視進行抑制治療などを研究テーマとしている。

大野 京子

大野 京子 おおの きょうこ

東京科学大学眼科学分野教授

博士(医学)。横浜市立大学医学部卒業、文部省在外研究員(ジョンス・ホプキンス大学)を経て、2014年から東京医科歯科大学眼科学分野教授に就任(現 東京科学大学)。東京科学大学先端近視センター長。日本近視学会理事長を務める、
専門は近視(とくに病的近視)

参考文献

  1. 綜説 子どもの近視――小児科医が知っておくべきこと・できること 小児科.2024.01;65(1):57-63.
  2. 文部科学省.学校保健統計調査―令和2年度結果の概要.令和3年7月.
  3. 日本眼科医会.子どもの目・啓発コンテンツについて.近視啓発冊子 ギガっこデジたん!大百科
    https://www.gankaikai.or.jp/info/post_132.html