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第14回アワード
生活習慣病予防分野 厚生労働大臣 最優秀賞 受賞さすけねぇ輪で変える!
高齢化率50%の町 健康共創プロジェクト
西会津町健康増進課(福島県)
地域の豊かなつながりを健康づくりに活かすプロジェクト「さすけねぇ輪」を推進し、「第14回健康寿命をのばそう!アワード」で厚生労働大臣最優秀賞を受賞した福島県西会津町。
事業立ち上げのきっかけや住民主体の体制へ転換した経緯について、西会津町役場の岩渕東吾氏(健康増進課 課長)、物永葉子氏(健康増進課 係長)、二木美津子氏(健康増進課 係長)の3名にお話を伺いました。
――西会津町の「さすけねぇ輪で変える!高齢化率50%の町 健康共創プロジェクト」の立ち上げのきっかけとなった経緯について教えてください。
岩渕東吾氏(以下、岩渕氏):西会津町は福島県と新潟県の県境にある人口約5,300人の町です。豪雪地帯であり、冬の運動不足や塩蔵品中心の食生活の影響で、脳血管疾患死亡率の高さが課題でした。現在では、高齢化率50%を超えています。
西会津町は、平成4年から「百歳への挑戦」を合言葉に健康づくりを推進し、減塩や平均寿命延伸など一定の成果を上げてきました。それから30年、取り組みは継続してきたものの、喫煙・飲酒習慣や運動不足は改善せず、塩分摂取量もまだまだ高い水準にあり、脳血管疾患標準化死亡比も全国より高いことが、平成30年の第1期健康増進計画の評価時点で分かっていました。住民の生活様式が多様化する中、行政主導型の施策に限界を感じていたのです。
物永葉子氏(以下、物永氏):そんな中、転機となったのが平成30年に福島県で行われた鎌田實先生の講演会でした。長野県を「日本一の長寿県」へと導いた立役者として知られる先生の講演に感銘を受け町長(現職)が「西会津町の健康づくりに力を貸していただきたい」と直談判したところ、ご快諾いただいたのが始まりです。
――鎌田先生の指導の下、住民主体の新たな健康づくりがスタートしたわけですね。活動方針やロゴマークを策定するにあたり、最初に住民と行政専門職が対話形式でワークショップを重ねたと伺っていますが、具体的にどのような形で進められたのでしょうか。
二木美津子氏(以下、二木氏): まず、住民13人と行政専門職から成る「健康増進計画策定委員会(通称:オモシロ座談会)」を結成し、対話型ワークショップを実施しました。当時、鎌田先生が所長を務めていた地域包括ケア研究所からファシリテーター※を招き、長野県のノウハウも学びました。
従来のやり方と大きく違ったのは、「相手を理解すること」から始めた点です。事前に参加者一人ひとりへ面談を行い、これまでの人生や今の暮らしについて丁寧に聞き取り、録音したものを皆で共有します。互いを理解した状態で対話に入るため、住民と職員が自然に打ち解けました。
岩渕氏:いきなり「このテーマについてアイデアを出してください」と投げかけても、なかなか意見は出にくいですよね。私たちのワークショップでは、ファシリテーター進行のもと、参加者のパーソナリティや主体性を引き出せるよう、創造性のある手法を取り入れたことも特徴です。
物永氏:毎回おにぎりなどの軽食を用意したことも、会話が自然に弾むきっかけになったと思います。回を重ねるうちに参加者の持ち寄りも増え、食や健康の話題が広がっていきました。大切なのは、住民が話し出すのを待つこと。「自由に発言していいんだ」と思える、楽しくてリラックスした雰囲気づくりが重要でした。
――その中で、住民とともに「からだ・こころ・つながりの健康づくり」という基本方針が生まれたのですね。
岩渕氏:「地域ぐるみの健康づくりには地域の特性を生かすことが大切」という鎌田先生の言葉を受け、西会津町特有の強みを考えた時に、住民から出てきた言葉が「つながり」でした。集落が点在する西会津では昔から結束が強く、「つながり」という確かな安心感が地域の中にあったんです。この“元々あったつながり”を健康づくりに活かしたことが、最大のポイントですね。
そしてたどり着いたのが「健康とは体だけでなく、心も人とのつながりも健康でなければいけない」という考えです。これが住民との対話から生まれた点に大きな意義があります。
二木様:この3つが満たされた先の“幸せ”を象徴する合言葉として生まれたのが「さすけねぇ輪」です。「さすけねぇ」は会津の方言で「大丈夫、心配ないよ」という意味を持ち、包容力のあるつながりを表しています。
ロゴは、この理念をもとに、地域おこし協力隊の方にデザイン案を出してもらいました。「健康を思い出せる、誰もが愛着を持てるもの」を目指し話し合いを重ねました。最終的には、調和と広がりを表す「輪」=「わ・WA」をイメージしたデザインが令和3年に完成しました。
物永氏:病気予防や数値改善だけを目指すのではなく、「心身の健康が持続可能なまちづくりにつながる」という視点で健康づくりを捉え直し、次の4つの目的を掲げました。
①住民が主体的に健康づくりを進める運動の展開
②健康寿命の延伸
③食生活・運動・社会参加・ソーシャルキャピタルの強化など包括的な取り組み
④健康づくりの過程を住民とともに探求し、専門職のスキル向上にもつなげる
――具体的には、それぞれどのような施策を行ったのでしょうか?
物永氏:
①住民が主体的に健康づくりを進める運動の展開
住民の自発的なアイデアから生まれた「さすけねぇ輪番組製作委員会」や「自然・文化・トレッキング探検隊」などの4つの部会を発足。身近で無理のない活動を主体的に実施しました。鎌田先生の講演会では活動発表の機会も設けました。
②健康寿命の延伸
すべての活動が健康寿命の延伸に寄与していますが、特に老人クラブ女性部の集いから生まれた「あいばせ体奏(たいそう)※」や、住民の声から誕生したご当地体操「さすけねぇ輪音頭」が大きな特徴です。
③食生活・運動・社会参加・ソーシャルキャピタルの強化など包括的な取り組み
地域座談会「みんなでワイワイ語ろう会」を開催。地域課題の共有、医師講話、少人数対話を組み合わせ、健康やつながりへの気づきを促しています。デイサービスの高齢者とこども園の児童の交流事業も好評です。
④健康づくりの過程を住民とともに探求し、専門職のスキル向上にもつなげる
これらの実践は、専門職のスキル向上にもつながっています。健診や保健指導など既存事業も住民視点で再設計し、健康づくりの進め方自体が変化しています。
――「さすけねぇ輪音頭」は広報にも役立っているようですね。他にも多くの住民を巻き込む工夫があれば教えてください。
物永氏: 「さすけねぇ輪音頭」は理学療法士が考案し、畑を耕す動作など日常の動きを取り入れた体操です。西会津の暮らしを感じる歌詞も魅力で、ケーブルテレビでの披露や活動紹介を通じて町全体に広まり、認知が一気に拡大しました。音楽が聞こえるとテレビに向かうお子さんもいるそうです。
岩渕氏:この体操をきっかけに、「楽しいから続けたい」という自発的な参加が増えました。特に高齢の方は「体操を楽しく続けるためにもっと健康を意識しよう」「諦めずにやってみよう」といった前向きな意欲も芽生えています。また、ケーブルテレビの健康番組にはすべて「さすけねぇ輪」の冠を付けて放送しており、告知効果の高さを実感しています。
ロゴ入りTシャツ、さすけねぇ輪音頭、さすけねぇ輪ポーズといった分かりやすいアイコンも一体感を生み、大人から子どもまでみなさんに親しまれています。「Tシャツが欲しい」というお声も多く、約450着を配布しました。こうした取り組みの積み重ねにより、「さすけねぇ輪」という言葉の住民認知度は81%に達し、町のほとんどの方に浸透しています。
――プロジェクトの成果として、どのような変化を感じていますか。
岩渕氏:成果は客観的な数値にも表れています。要介護2に至るまでの平均自立期間は、令和元年度から6年度の5年間で男性77.4→79.5歳(+2.1歳)、女性82.4→85.2歳(+2.8歳)へ延伸しました。住民の健康寿命が着実に改善していることが分かります。
こうした数値の背景には、高齢者が病気と付き合いながらも「つながり」を活性化させることで社会的フレイルを防ぐ取り組みがあると考えています。それが結果的に個人の健康状態を保ち、健康寿命延伸につながったと評価しています。
物永氏:住民への調査では、高齢化が進んでいても「自分は孤独ではない」と感じている方がとても多く、つながりの自己評価の高さに驚きました。これまでは顕在化した課題の解決に注力してきましたが、高齢化が進む中で「どう病気を防ぐか」以上に、住民の皆さんが「どう生きていきたいか」という価値観に寄り添う視点が不可欠だと感じるようになりました。
二木氏:委員やアンバサダーを引き受けてくださった方自身の意識も、自然と高まっていくようで、「親子でマラソン大会に出場したことを機に、家族も一緒に走ってダイエットしています」といった、身の回りで起きた“健康ニュース”を嬉しそうに報告してくださる方も増えました。健康の輪がご家族や友人にまで広がっているなと、確かな手ごたえを感じています。
――最後に、全国の健康事業担当者に向けてメッセージをお願いします。
物永氏:「予防のために○○をやめましょう」といった指導だけでは、住民の心は閉じてしまいます。大切なのは“指導”ではなく、“住民から学ぶ姿勢”と、良い関係性を築くことだと考えています。
また、日常の営みの中に、実は健康の種があると気付いてもらうことも、私たちの重要な役割です。例えば畑仕事では、足腰を使って作物を育て、収穫の喜びを味わう。さらにそれをご近所に配ると喜ばれ、自分も嬉しくなる。これが、まさに「からだ・こころ・つながりの健康づくり」なんです。その価値を自覚してもらうことが、健康意識を高める大きなきっかけになると信じています。
二木氏: 住民の方が日々楽しんで取り組んでいることに耳を傾け、それがどのように健康につながっているかを、私たち専門職が丁寧にお伝えすることが大切。それを認め、「このままでいいんだ」と自信を持ってもらうことが、行動を支える力になるはずです。
岩渕氏: 健康づくりにおいて個人の行動変容は不可欠ですが、それと同時に地域全体の意識を変えていくことも重要だと考えています。
西会津町の地域特性として「つながり」があったように、どの地域にも、それぞれが大切にしてきた独自の文化や価値観があるはずです。それらを住民の皆さんと共有し、地域の良さを活かしながら進めることは、一見遠回りに見えるかもしれません。しかし、そこから地域全体の意識の変化、そして個人の行動変容へとつながっていく。その過程が、実は最も効果的なのではないかと感じています。

