食物繊維とは、小腸で消化されず、そのまま大腸まで届く食品成分のことです。便秘を防ぐ整腸効果だけでなく、2型糖尿病、がん(乳・胃・大腸)、心筋梗塞、脳卒中の発症リスクの低下との関連が報告されています。しかし、現在の日本人の食物繊維の摂取量は目標量よりも少なく、積極的に摂ることが望まれます。
食物繊維の定義は広義ではあまり差がないものの、考え方や測定方法によって各国間で少しずつ異なっています[1,2]。日本では、日本食品標準成分表2015年版(七訂)において「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義されています[3]。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、「難消化性炭水化物を食物繊維と呼ぶこと」としています[4]。言い換えると、たんぱく質や脂質、炭水化物などの栄養素は、ほとんどが消化酵素によって分解(消化)され、小腸から体の中に吸収されていきます。一方、食物繊維はこの消化・分解を受けずに、大腸まで達する成分です。食物繊維というと「繊維」という言葉から、細い糸やスジ状のものを想像しがちですが、水に溶けて「ネバネバ」するものから、「サラサラ」した状態のものまで、多くの種類があります。例えば、水に溶けないセルロース(野菜、果物など)やリグニン(ココアなど)、水に溶けるペクチン(野菜、果物など)やアルギン酸(海藻類など)などがあり、さらに難消化性のでん粉やデキストリン、難消化性オリゴ糖なども含まれます[5,6]。
食物繊維のはたらきとして、便の体積を増やす材料となるとともに、大腸内の環境を改善する腸内細菌に利用され、これらの菌を増やすことが明らかとなっています。また、食物繊維は、製品ごとに食品の有効性や安全性について審査を受け、食品の持つ特定の保健の用途を表示して販売される特定保健用食品の、身体の生理的機能に影響を与える関与成分として「おなかの調子を整えます」の表示が認められています。
1955年では、日本人は一人あたり1日20g以上の食物繊維を摂っていました[7]。しかし、穀類・いも類・豆類の摂取量が減り、令和6年国民健康・栄養調査の結果では、日本人成人(20歳以上)における食物繊維の摂取量の平均値は1日18.1gとなりました(令和6年国民健康・栄養調査)。食物繊維の理想的な摂取量は成人で1日25g以上と考えられており、世界保健機関(WHO)のガイドライン[8]でもこの量を摂取することが推奨されています。一方で、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、日本人の現状の摂取実態や、生活習慣病の予防の観点を踏まえて、成人男性で1日20g以上、女性では1日18g以上の目標量が設定されています。いずれにしても、食物繊維の積極的な摂取が必要であると考えられます。
食物繊維は、魚介類や肉類などの動物性食品にはほとんど含まれず、植物性食品に多く含まれます。食物繊維を手軽に摂りたい方へおすすめするのは、まずは主食である穀類を工夫する方法です。1日のうち1食の主食を麦ごはん、胚芽米ごはん、全粒小麦パン、ライ麦パン、そば、スパゲティなどにすると、精白米やふつうの食パンに比べて効率的に食物繊維が摂取できます。
例えば、大麦(押し麦)、そば、さつまいも、さといも、糸引き納豆、おから、いんげん豆、あずき、切り干し大根、ごぼう、ブロッコリー、モロヘイヤ、しいたけ、ひじき、りんごなどには、平均的な1食あたりの目安量に、2~3gの食物繊維が含まれています。効率的に食物繊維を摂るには、これらの食材を毎日の食事の中に無理のない範囲で、上手に取り入れることが大切です。さらに、1日の食塩摂取量に気を付けながら、汁物を野菜などの具だくさんみそ汁にする、バナナやみかんなどの食べやすい果物を間食にするのも、手軽な方法の一つでしょう。
食物繊維は消化・吸収を受けずに大腸まで達し、そこで腸内細菌によって分解・利用されます。特に善玉菌に利用されやすい「プレバイオティクス」としてはたらく点が特徴です[9]。善玉菌にとって、難消化性の炭水化物は利用しやすい栄養源であるため、その摂取は菌の増殖を促し、健康維持に重要な役割を果たします。また、食物繊維が利用されると、小さなサイズの脂肪酸である数種の短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸)や乳酸が産生されます[10]。これらの酸は大腸内を酸性に保つことで、善玉菌の増殖に適する環境にするとともに、悪玉菌の増殖を抑えます。
便秘予防といえばまずは食物繊維を思いつく方も多いと思います。便秘と食物繊維の摂取量との関係が気になるところです。便秘は、慢性便秘症診療ガイドライン2023年版では、「本来体外に排出すべき糞便が大腸に滞ることによる兎糞状便(とふんじょうべん:小さなコロコロ状の硬い塊状の便)・硬便・排便回数の減少や糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責(どせき:おなかに力を入れていきむこと)、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難を認める状態」と定義されています[13]。過去の研究から、食物繊維摂取量の増加は、排便量や回数の増加、食物の消化管通過時間の短縮との関係が報告されています[14]。上記のガイドラインには、「自発的な排便回数が、週3回未満である」の便秘症判断基準もあります。便秘は生理的条件や生活習慣など、様々な要因が影響しますが、日本人若年女性を対象とした研究でも食物繊維摂取量と排便回数には関連が認められています[15]。排便量を維持するためには、十分な量の食物繊維の摂取が欠かせません。
なお、日本食品標準成分表における、食品中の食物繊維の含有量については、2020年版(八訂)から、新しい方法(AOAC2011.25法)での測定値の掲載が、一部の植物性食品で始まりました[16]。これにより、今まで測定できていなかった難消化性のでん粉とオリゴ糖まで測定できるようになり、従来の測定方法(プロスキー変法:AOAC985.29法)に比べて、一部の食品では食物繊維含量が従来よりも高く算出されています。測定方法による数値の変化はありますが、食物繊維については、まずは1日あたりプラス3~4gを目安に、無理のない範囲で積極的に摂取するとよいでしょう。
(最終更新日:2026年2月16日)