「むし歯は減った」といわれますが、実は他の病気に比べると極めて多い疾患です。令和6年学校保健統計調査において近視に次いで、むし歯は多く[1]、永久歯に治療が必要なむし歯を有する人は28%(令和6年歯科疾患実態調査)[2]と極めて多い状況です。40歳以上の年齢において約4割は、むし歯が原因で抜歯の経験があります。高齢者でも、むし歯を有する人が増加しています[3]。むし歯の多くは、歯ブラシの届きにくい奥歯の溝や歯と歯の間から発生します。大人では、歯の詰め物の下で再発したむし歯や歯の根面のむし歯も多くなります。初期のむし歯はフッ化物の利用に加えて、適切なプラークコントロール等により回復することがあります。しかし、進行すると歯を削ったり、歯の神経(歯髄)を取り去るような大きな治療が必要になります。
こどもはむし歯になりやすいことで知られます。その理由のひとつが、生えて間もない歯は石灰化が未成熟のため、歯が十分に硬くなっておらず、酸で溶かされやすいからです。石灰化が終わるまでに生えてから2~4年かかります。また、砂糖を含んだ飲料やお菓子をこどもが好むことが多いことも、要因として挙げられます。
乳歯のむし歯に特徴的な要因としては、哺乳瓶に甘いジュース等の飲み物を入れて与えること、夜間の授乳、卒乳時期が遅いこと、保護者による歯みがきの開始時期が遅いこと、フッ化物配合歯磨剤の利用開始時期が遅いこと等が挙げられます。夜寝ている間は唾液の分泌が減少するため、寝る前の甘い飲食物の摂取や授乳はむし歯のリスクを高めます。「授乳・離乳の支援ガイド(平成31(2019)年3月)」では、離乳の完了は生後12~18カ月頃であり、母乳または育児用ミルクは、こどもの離乳の進行および完了の状況に応じて与えるとされています[4]。むし歯予防の観点からみた卒乳時期は、離乳の完了時期をめどにすることが望まれますが、こどもの成長発達、離乳の進行の程度や家庭環境等を考慮しつつ、母親等の考えを尊重しながら判断すべきです。
また、歯が生えたらすぐにフッ化物配合歯磨剤(1000ppm程度のフッ化物濃度)をごく少量歯ブラシにつけて利用することが推奨されています[5]。なお3~5歳では、歯磨剤の量はグリーンピース程度となります。
学齢期の永久歯のむし歯に特徴的な要因としては、こどもが自分で歯みがきを行う場合、奥歯や新しく生えた歯に磨き残しがあることが挙げられます。さらに、こどもに発生するむし歯の8割以上が、歯ブラシの届かない奥歯の溝(小窩裂溝)から発生しているという報告もあり[6]、歯みがきは当然のこと、フッ化物配合歯磨剤の利用や歯科医院でのフッ化物歯面塗布や歯の溝を埋める処置(シーラント)、学校での集団フッ化物洗口といった方法が重要になります。6歳以降では、1500ppm程度の濃度のフッ化物配合歯磨剤を歯ブラシ全体につけて利用することが推奨されています[5]。運動や勉強の合間に、甘いジュース等の飲み物を少しずつ長時間にわたり飲むこともむし歯のリスクを高めるため、水やお茶に変えることも重要でしょう。
大人の歯科保健対策といえば歯周病と受け取られがちですが、大人でもむし歯の発生は頻繁に見られます[7]。大人のむし歯は特徴で分けると下記のように3種類存在します。
第一に、こどもと同様に歯の溝や歯と歯の間・歯ぐきに接する部分等から発生するむし歯が挙げられます。
第二に、むし歯の治療に用いた歯の詰め物の下で再発したむし歯(二次う蝕)が挙げられます。歯の詰め物と歯との間に隙間があると、細菌が進入してしまうため、むし歯を発生させる可能性があるのです。このむし歯はもともと歯の治療をしているため、歯のより奥深くに進行することが多く、むし歯が神経に達する原因となります。また、歯の神経(歯髄)を抜いた歯の場合、むし歯の痛みが分からずに気づくのが遅くなる傾向にあります。
第三に、歯周病等により歯の根面が露出した部分に発生するむし歯(根面う蝕)が挙げられます。根面は、通常の歯の表面にあるエナメル質とは異なり、より硬度の低い象牙質で作られているため、むし歯になりやすいのです。歯茎が下がって根面が露出した高齢者でしばしば発生します。奥歯での発生は見つかりにくいため、気づくのが遅くなりがちです。全身的な活動能力の低下や薬物の服用により唾液が減少した高齢者では、根面のむし歯が多発することがあります。
令和6年の歯科疾患実態調査によると、1~14歳のむし歯経験を有する者の割合は、乳歯だけでは15.7%、5~14歳の乳歯と永久歯の両方を含めたむし歯経験を有する者の割合は28.6%にのぼります。治療が必要なむし歯を有する者の割合では、乳歯だけでは6.9%、乳歯と永久歯の両方では8.4%となります[2]。
5歳以上の永久歯の統計では、う蝕経験を有する者は87.5%と極めて高い状況です。治療が必要な永久歯のむし歯を有する者の割合は28.2%(およそ3~4人に1人)と多いことが分かっています[2]。また、高齢者ではむし歯を有する人が増加傾向にあります。
歯がなぜ喪失するのかを調べた調査結果では、最も多かったのが「歯周病」(37%)で、「むし歯」(29%)、「破折」(18%)、「その他」(8%)、「埋伏歯」(5%)、「矯正」(2%)となっています[3]。しかし、「破折」の多くは、中高年から増加するむし歯の治療で歯髄を除去した歯が折れることが主な原因と考えられます。そのため、むし歯と破折を合わせると、むし歯が最も大きい歯の喪失原因となります。
むし歯は減ったというイメージが強いですが、このように今でも非常に多い疾患であり、高齢者においては増加傾向にあるのです[2]。高齢者では、疾病等により通院困難な方が増えるため、訪問診療による治療が必要になることもあります。ライフコースを通じてむし歯を予防するという観点から、歯科医師や歯科衛生士によるフッ化物歯面塗布の保険の適用範囲が近年拡大しています。また健康格差の縮小の観点から、幼稚園・保育園・こども園や学校における集団フッ化物洗口も推奨されています[8][9]。非常に多い疾患であるがゆえに、個人および社会における多面的な取り組みが欠かせません。
(最終更新日:2026年2月2日)