水道水フロリデーション

水道水フロリデーションとは、むし歯を予防するために、飲料水中のフッ化物濃度をむし歯の発生を大きく抑制する適正量(約1ppm)まで調整するという方法です。むし歯有病状況を半分程度にするという効果があり、歯科受診やフッ化物配合歯磨剤の利用が難しい人等にも、自然に健康になれる環境を実現できる可能性がある方法です。もともとフッ化物は自然の状態で飲料水に微量に含まれており、その濃度によってはむし歯予防効果があることが100年ほど前に発見されました。80年以上の実施の歴史と研究から、安全性と効果について繰り返し専門機関が保証しています。緑茶や紅茶にもフッ化物が含まれますが、その濃度は水道水フロリデーションと同じくらいであり、身近な食品に近い濃度のフッ化物でむし歯を予防する方法として知られています。

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水道水フロリデーションとは、飲料水中に存在するフッ化物の量を適正な濃度に調整し、その飲料水を摂取することによってむし歯を予防する方法です。実際には以下の3つの方法があります。

  1. 天然の適正濃度水源をそのまま利用する。
  2. 天然のフッ化物濃度が不足している場合、適正濃度までフッ化物を追加して調整する。
  3. 天然のフッ化物濃度が高すぎる場合、適正濃度までフッ化物を除去して調整する。

水道水フロリデーションの安全性および効果については、世界保健機関(WHO)、米国疾病管理予防センター(CDC)および世界中の各国歯科医師会等、国際的あるいは国家的な専門機関が保証しており、その普及を支持しています。

1. 飲料水中フッ化物濃度と歯のフッ素症の流行およびむし歯の有病状況

米国国立公衆衛生局のディーン(Dean, H.T.)は、歯のフッ素症(*1)とむし歯の有病状況について、飲料水中フッ化物濃度の異なる21地域の12~14歳の約7,300名を対象に調査を行いました[1]

図1: 飲料水中のフッ化物濃度と歯のフッ素症、むし歯の有病状況の関係

飲料水中のフッ化物濃度と歯のフッ素症、むし歯の有病状況の関係

その結果、【図1】のように飲料水中フッ化物濃度が約1ppm(*2)までの地区では歯のフッ素症の流行はほとんどみられないこと、1.2ppmを越えるあたりから軽度の歯のフッ素症が発現し始め、1.8ppm以上になると誰が見てもそれと気付く中等度以上の歯のフッ素症が発現していることが分かりました。また、むし歯の有病状況は、飲料水中フッ化物濃度が0ppmから1.2ppmの範囲において急勾配で減少し、それ以上のフッ化物濃度になると、減少傾向は緩慢になっていきました。

こうしたことから「飲料水中フッ化物濃度が1ppm以下であれば歯のフッ素症の流行がなく、また1ppm前後のフッ化物を含む飲料水はむし歯の発生を大きく抑制する」という結論が出され、このようにフッ化物が不足した水道水にフッ化物を添加すれば、むし歯が予防できるということが明らかになったのです[2]

*1 歯のフッ素症:エナメル質に境界不明瞭の白斑・白濁・白い水平縞が現れる。軽度なものは専門家でないと識別が困難である。中等度になると歯面全体にわたってチョーク様に白濁する。これに小陥凹が加わることがある。小陥凹部には外来性の色素が沈着し、褐色~黒色を呈することがある。むし歯は少ない。【図1】中に「フッ素症の境界線」として示されるように、地域フッ素症指数は0.4~0.6で公衆衛生上の問題はほとんどなく、0.4を下回ると歯のフッ素症の問題なしとなる。

*2 ppm:「100万分の1」の単位。例えば、ある物質が水1リットル中に1mg含まれているということ。

2. 水道水フロリデーションの普及と効果

1945年に、米国ミシガン州のグランド・ラピッズ(Grand Rapids)ほか北米の3カ所において世界ではじめての水道水フロリデーションが開始されました。その15年後には、永久歯のむし歯を約50~60%予防するという結果があらためて確認されたのです[2][3]

その後、水道水フロリデーションは、米国内はもとよりオーストラリア・ブラジル・香港・アイルランド・マレーシア・ニュージーランド・シンガポール・英国など多くの国々や地域に導入されるようになりました。世界的にみると3億7,000万人が水道水フロリデーションからの利益を受けていると見積もられています[2]

また世界32カ国の74編の研究から集められた永久歯のむし歯および乳歯のむし歯の予防効果に関する論文を集めたレビューでは、国、民族、生活様式、むし歯の有病状況、フッ化物配合歯磨剤の利用状況等の違いがあるにもかかわらず、むし歯を永久歯で半分程度、乳歯で4割程度減らすことが報告されています[4]

さらに、誰でも水を飲むだけでむし歯予防になるため、むし歯の健康格差をフロリデーションが縮小するということも分かっています[5]。様々な状況により、むし歯予防のために歯科医院に定期的に受診したり、フッ化物配合歯磨剤を購入したりすることが困難な家庭では、そうでない家庭と比較して水道水フロリデーションの効果が相対的に大きくなることがその理由です。実際、そうした社会背景を有する家庭のこども程、水道水フロリデーションのむし歯予防効果が大きいことが報告されています[5]。そのため今日ではむし歯の健康格差縮小効果の観点からその恩恵が再注目されています。

3. 日本における水道水フロリデーション

日本においては、1952年から1965年まで京都市山科地区で水道水フロリデーションが試験研究として行われました。その他に沖縄県(1957~72年)および三重県朝日町(1967~71年)でも実施されていたことがあります。ただし、沖縄県のアメリカから日本への返還や朝日町での配水系の変更を機に、現在ではいずれも中止されています。

なお、日本でも水道水中の天然フッ化物濃度が0.4ppmの地域があり、そのような地域ではむし歯予防効果が若干認められています[6]

【付記】
水道水フロリデーションは、「水道水フッ化物濃度調整」あるいは「水道水フッ化物濃度適正化」ともいわれます。
過去にはフッ化物が不足している飲料水にフッ化物を添加する場合のみに限定して「水道水フッ素化」あるいは「水道水フッ化物添加」と表現されることがありましたが、現在ではフッ化物が過量の場合はフッ化物を部分的に除去すること、また不足の場合は同じく添加することによって濃度を適正に調整するという本来の定義に基づいた表現が採用されるようになりました。

(最終更新日:2026年2月2日)

相田 潤

相田 潤 あいだ じゅん

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授

2003年北海道大学歯学部卒業、04年国立保健医療科学院専門課程修了、07年北海道大学大学院歯学研究科博士課程修了。07年東北大学大学院歯学研究科助教、10年University College London客員研究員、11年東北大学大学院歯学研究科准教授、12年~19年宮城県保健福祉部参与(歯科医療保健政策担当)兼務、14年東北大学大学院歯学研究科臨床疫学統計支援室室長兼任、20年~21年東北大学大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンター地域展開部門教授(クロスアポイントメント)、20年より現職。専門分野は公衆衛生学と社会疫学。現在、歯科疾患の健康格差、口腔と全身の健康の研究、ソーシャル・キャピタルや東日本大震災の健康影響などの研究に従事。

参考文献

  1. Dean HT. The investigation of physiological effects by the epidemiological method. Fluorine and dental health 1942; 23-31.
  2. Whelton HP, Spencer AJ, Do LG, Rugg-Gunn AJ. Fluoride Revolution and Dental Caries: Evolution of Policies for Global Use. J Dent Res 2019; 98(8):837-846.
  3. Arnold FA, Likins RC, Russell AL, Scott DB. Fifteenth year of the Grand Rapids fluoridation study. J Am Dent Assoc 1962; 65:780-785.
  4. Nascimento CFD, Gindri L, de Oliveira MN, Paranhos LR, Hugo FN. Water Fluoridation and Dental Caries Prevention Globally: A Systematic Review and Meta-Analysis. JDR clinical and translational research 2025; 23800844251342804.
  5. Matsuyama Y, Ha DH, Kiuchi S, Spencer AJ, Aida J, Do LG. Water fluoridation as a population strategy for reducing oral health inequalities: high-dimensional effect heterogeneity analysis using machine learning. Int J Epidemiol 2025; 54(4).
  6. Matsuyama Y, Fujiwara T, Aida J. Tap water natural fluoride and parent-reported experience of child dental caries in Japan: Evidence from a nationwide birth cohort survey. Community Dent Oral Epidemiol 2023; 51(6):1141-1149.