糖尿病の食事

糖尿病の食事は、血糖コントロールや合併症予防を目的とし、バランスの良い「健康食」が基本です。適正なエネルギー量になるよう、主食、主菜、副菜を組み合わせます。食物繊維の多い食品を積極的に摂り、脂質や食塩を控えましょう。1日3食を規則正しく摂り、ゆっくり食べることも大切です。医師や管理栄養士に相談しながら、楽しみながら継続することが勧められます。

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食事療法の目的

糖尿病は、インスリンの働きが低下し、血糖値が高くなる病気です。高血糖の状態が続くと、糖尿病網膜症、腎症、神経障害といった合併症を引き起こします。食事療法は、良好な血糖コントロールを保ち、これらの合併症を防ぐために非常に重要です。また、合併症の予防に必要な血圧や血中の脂質を管理するうえでも欠かせません。肥満を合併している場合は、適正な体重を維持することも大切な目的となります。

食事療法の原則

糖尿病の食事は適量でバランスの良い「健康的な食事」であり、特別な食事が必要なわけではありません。肥満がある場合など、一部制限が必要なこともありますが、「より良く食べる」という意識を大切にしましょう。

1.エネルギー

適切な量のエネルギーを摂り、適正な体重を維持することが大切です。エネルギーを過剰に摂取すると、高血糖につながりやすくなります。エネルギー摂取量は、年齢や目標体重、活動量に合わせて決めます。

2.炭水化物

炭水化物は、糖質と食物繊維を合わせたもので、ご飯やパン、いも類などに含まれます。糖質は血糖値を上げる主な原因ですが、食物繊維は反対に、血糖値の急激な上昇を抑える働きがあります。玄米、大麦、野菜、豆類、きのこ、海藻などには食物繊維が多く含まれるため、積極的に摂りましょう。一方、清涼飲料水や菓子類に含まれる糖質は、速やかに吸収されて血糖値を急激に上昇させるため、控えめにしましょう。

グリセミック・インデックス(GI)は、炭水化物を含む食品を食べた際の食後の血糖値の上がりやすさを数値で示したものです。GIの高い白米やうどんを、GIの低い玄米やそばに置き換えることで、血糖値の急上昇を抑えることができます。

3.脂質

糖尿病の重症化予防のために、肉類や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸の摂りすぎに注意しましょう。また、食事からのコレステロールの過剰摂取も避けましょう。魚に多く含まれるn-3系脂肪酸は、心血管疾患のリスクを減らすのに役立つとされているため、積極的に摂ることをおすすめします。

4.たんぱく質

たんぱく質は、筋肉や血液などの材料となる大切な栄養素で、魚、肉、大豆、卵などに多く含まれます。健康維持のために過不足なく摂る必要があります。腎臓に障害がある場合は制限が必要になることがあるため、主治医に相談しましょう。

5.食塩

高血圧を合併している場合は、食塩を1日6g未満に制限します。調味料を減らすだけでなく、漬物、干物、練り製品などの加工食品にも注意が必要です。だしや香辛料、酸味などを活用し、塩味以外の風味を楽しみましょう。

食事の組み立てと実践

1回の食事では、主食(ごはんやパン)、主菜(おかず)、副菜(野菜のおかず)を組み合わせると、炭水化物・たんぱく質・脂質をはじめとした栄養バランスが整いやすくなります。焼きそばのような一品料理の場合も、主食(麺)、主菜(肉)、副菜(野菜)に分けて考えると良いでしょう。その他に、乳製品と果物を適量追加するとビタミンやミネラルを補えます。

『糖尿病食事療法のための食品交換表』[4]を使うと、6つの食品グループから多様な食品を適量選ぶことができ、献立作りに役立ちます。

カーボカウントは、食事に含まれる炭水化物(糖質)の量を計算し、食事療法に活用する方法です。特にインスリン注射をしている場合は、食事ごとの炭水化物量に合わせてインスリンの量を調整できるため、良好な血糖管理が期待できます。

望ましい食習慣

1日3食を基本とし、時間を決めて規則正しく、3食の量にも偏りがないよう食事を摂りましょう。「まとめ食い」を避けることで、血糖値の急上昇や高血糖の持続を防ぐことができます。欠食、遅い時間の夕食、間食の過多、まとめ食いなどの習慣を見直すことが大切です。また、ゆっくりと時間をかけて食べることも勧められます。

食事療法を続けていくために

病院や診療所では、医師や管理栄養士、糖尿病療養指導士に食事の相談ができます。毎日の生活に欠かせない食事を楽しみながら、無理なく食事療法を続けていきましょう。

(最終更新日:2025年12月15日)

深津 章子 ふかつ あきこ

大妻女子大学家政学部食物学科 准教授

博士(栄養学)、管理栄養士。徳島大学医学部栄養学科を卒業後、小児専門病院での勤務を経て、現職に至る。管理栄養士・栄養士の養成に携わる教育活動に加え、食事・食生活が疾病の予防や治療に与える影響について研究を行っている。研究テーマは糖尿病の食事療法と小児臨床栄養、効果的な栄養指導プログラムの開発。

参考文献

  1. 日本糖尿病学会.糖尿病治療ガイド2024.東京、文光堂、2024年.
  2. 一般社団法人日本糖尿病学会、糖尿病診療ガイドライン2024、2024年、東京.
    https://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
  3. 一般社団法人日本動脈硬化学会、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版,2022年,東京.
    https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_3_230210.pdf
  4. 日本糖尿病学会糖尿病食事療法のための食品交換表第7版、文光堂、2013年、東京.
  5. 一般社団法人 日本糖尿病学会、健康食スタートブック ‒生活の質向上をめざして-,2024年,東京
    https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/kenkoshoku_startbook/kenkoshoku_startbook.pdf