多くの若い女性が持つ「やせ願望」や「ダイエット指向」については、その多くがやせる必要がないのに、偏った食生活を送ったり、極端なダイエットを繰り返したりしていることが背景にあります。若い女性の「やせ」は、将来の骨粗鬆症等の健康問題のリスクを高めます。また、若い女性や妊婦の「やせ」は、次世代の子どもの生活習慣病の発症リスクを高めることが危惧されています。
令和5年国民健康・栄養調査によると、体格指数(BMI)が18.5未満の「やせ」の者の割合は、女性全体では12.2%でしたが、20歳~30歳代女性では20.2%でした。20歳~30歳代女性のやせの者の割合は、ここ10年は大きな増減はみられず、健康日本21(第三次)でもその割合を減少させることが目標となっています[1]。
女性の「やせ」が減少しない背景には、適切な体形についての認識不足や、「やせているほうがいい」といった価値観、様々なダイエット情報の氾濫など種々の因子が影響を及ぼしていると考えられています。そして、誤ったダイエットなどによる偏った食生活は、鉄欠乏など潜在的な栄養不良のリスクを高めるおそれがあります。
鉄欠乏やそれに伴う貧血は、だるい・疲れやすいといった自覚症状や、爪の変形などをもたらします[2]。鉄欠乏を防ぐには鉄を豊富に含む赤身の肉や魚、ほうれん草などの緑葉野菜をしっかり取り入れ、その吸収を高めるビタミンCなどを含む果物なども組み合わせて、バランスの良く食べることが大切です。月経のある18~29歳の女性では、鉄は1日に10.0mg、30~49歳では10.5mg摂取すると不足のリスクが少なくなると考えられていますが[3]、実際には多くの女性で摂取量がこれに満たないことが指摘されています。無理なダイエットや偏った食生活は、鉄以外にも健康を維持する上で必要な栄養素の不足を招きます。また「食べない」といった無理なダイエットを行うと、筋肉量が減少し基礎代謝が低下するため、体脂肪が蓄積しやすい体質になります[4]。
さらに「やせ願望」が深刻化すると、「神経性やせ症(拒食症)」や「神経性過食症(過食症)」を招く恐れがあります。いずれも体重増加に対する強い恐怖感を伴う摂食障害ですが、前者は太ることを恐れて食物を避け、極端なやせを伴います。多くは思春期から青年期早期にかけて発症すると考えられています。後者は数ヶ月間にわたって、少なくとも週1回以上の過食と、体重増加を防ぐための不適切な代償行動(嘔吐、下剤の使用など)の両方が存在し、拒食症よりは発症が遅い傾向があります[5,6]。
摂食障害が慢性化すると、無月経や低血圧・不整脈など多くの健康障害を招く恐れがあります。摂食障害の発症には、強い「やせ願望」以外にも、低い自尊心や生活環境、家族の影響など、様々な原因が複雑に関連しています[5,6]。まずは適切な体重を理解し、誤った「やせ願望」を持たないようにしましょう。また、体を動かしたり、趣味を持ったりするなど、自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。そして、摂食障害のサインに気づいたら、できるだけ早く専門家に相談しましょう。
日本では低出生体重児(2,500g未満)の割合がおよそ10%程度[7]で推移していますが、2015年に世界各国の低出生体重児の実態を調べた研究によると、北米やヨーロッパなどの先進国ではその割合は7%前後[8]となっており、日本の低出生体重児の割合は高いといえます。その背景の一つに、若い女性のやせや、妊娠中の体重増加不足があるといわれています。小さく生まれてきた子どもは、体内にエネルギーを溜めこみやすい体質であるため、成人後に生活習慣病(高血圧・糖尿病など)にかかりやすいと考えられています[9]。適切な栄養摂取や健康的な生活習慣を意識することは、自身の健康の維持・増進だけでなく、将来生まれてくる子どもの健康につながります。そして、それは単に健康を守ることにとどまらず、より充実した人生を送ることにもつながるでしょう。妊娠前から適正体重の維持とバランスのとれた食生活の確立を目指しましょう。
(最終更新日:2025年6月16日)