脂質異常症の食事

脂質異常症とは、血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)またはトリグリセライド(中性脂肪)が基準値より高い、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)が基準値より低い、これらのどれかに該当する状態をいいます。この状態が続くと、動脈硬化(血管が硬くなって弾力が失われ、狭くなって詰まりやすくなった状態)が進み、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす可能性がとても高くなります。

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脂質異常症の発症には、遺伝的な要因に加えて、食生活や運動習慣などの生活習慣が関与することが知られています。生活習慣に起因する場合、適切な食事や運動(身体活動)を心がけることで改善が期待できます。ここでいう適切な食事とは、脂質異常症を改善して動脈硬化性疾患を予防することを目指した内容になります。動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版[1]では、その食事内容を以下のように示しています。

動脈硬化疾患予防のための(脂質異常症の方の)食事

1.過食に注意し、適正な体重を維持する

目標とする体重維持を目指し、食事の量を調節します。目標とする体重(kg)の目安は「身長(m)×身長(m)×BMI(kg/m2)」で、BMIは、18~49歳で18.5~24.9、50~64歳で20.0~24.9、65歳以上で21.5~24.9とします。また、総エネルギー摂取量(kcal/日)は、「目標とする体重(kg)×身体活動量(軽い労作で25~30、普通の労作で30~35、重い労作で35~)」を目指します。目標とする体重を目指して減量が必要な場合は、総エネルギー摂取量を調整しましょう。例えば、目標とする体重(kg)×25~30を目指して取り組みを始めてみることが望ましいでしょう。

例えば、身長165㎝、70kgの60歳男性(脂質異常症)の場合、目標とする体重は、1.65×1.65×20.0~24.9=54.5~67.8kgとなり、望ましいエネルギー摂取量は67kg×25~30=1,675~2,010kcalとなります。つまり、約1,800kcal(1食で約600kcal)が目安になります。定期的に、体重計に乗ることをお勧めします。

2.肉の脂身、動物脂、加工肉、鶏卵の大量摂取を控える

肉や乳製品の脂質には飽和脂肪酸が多く含まれます。適正なエネルギー摂取量のもと、飽和脂肪酸を制限すると動脈硬化性疾患の発症リスクは低下します。肉類を食べるときは、脂身の少ない赤身肉などを選びましょう。また、飽和脂肪酸は乳製品のクリームやバター、ラード、ココナッツオイル、ショートニングなどにも多く含まれるので、菓子類の食べ過ぎにも注意しましょう。また、マーガリンやショートニングの中には、動脈硬化性疾患の発症に関与するとされるトランス脂肪酸が多く含まれているものもあるので、栄養成分表示にトランス脂肪酸量の記載がある場合は確認するようにしましょう。

高LDLコレステロール血症の方は、コレステロール摂取量を1日200mg未満に抑えることが推奨されています。卵類、肉類、魚肉の内臓などはコレステロールを多く含みますので、これらの過剰摂取は避けましょう。

3.魚の摂取を増やし、低脂肪乳製品を摂取する

エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系多価不飽和脂肪酸は、高トリグリセライド血症を改善し、冠動脈疾患発症の抑制が期待できます。この多価不飽和脂肪酸は青魚や脂が多い魚に多く含まれていますので、積極的に魚を食べるとよいでしょう。また、カリウム、カルシウム、マグネシウムを積極的に摂取することで血圧を下げることが期待できます。これらを多く含む野菜類や乳製品の摂取が推奨されています。飽和脂肪酸を摂りすぎないように、低脂肪の乳製品を選ぶとよいでしょう。

4.未精製穀類、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、大豆および大豆製品、ナッツ類の摂取量を増やす

緑黄色野菜を含めた野菜、海藻、大豆および大豆製品から食物繊維をしっかり摂取することで、血中脂質は改善され、心血管疾患や脳血管疾患の発症リスク・死亡リスクが低くなります。野菜は1日に350g(両手で山盛り一杯)以上必要です。しかし、漬物などを食べる際は、同時に食塩摂取が多くならないように注意が必要です。精製度が低い五分づき米や玄米などは、食物繊維がしっかり摂取できるだけでなく、ビタミンB1やマグネシウムなどの他の栄養素も摂取できるので、推奨されています。

海外の研究では、アーモンドやピーナッツなどのナッツ類の摂取によって心血管疾患の発症リスクが低下すると報告されています。しかし、過度の摂取は過剰なエネルギー摂取量になりますので、1日に小皿1杯を目安に摂取するとよいでしょう。

5.糖質含有量の少ない果物を適度に摂取し、果糖を含む加工食品の大量摂取を控える

柑橘類などの果物の摂取は、心血管疾患や脳血管疾患の発症リスクと血圧を下げることが知られています。しかし、果物の過剰摂取や缶詰・ジュースなどの摂取は高トリグリセライド血症の原因になります。加工食品やジュースなどを控え、フレッシュな果物を毎日摂取しましょう。1日に200g程度(りんごなら1個、バナナなら2本、ミカンなら2個ぐらい)が目安です。糖尿病の方でも、血糖値が高くなるからといって果物を敬遠するとビタミンが不足するので、その量や食べ方については医師や管理栄養士と相談しましょう。

6.アルコールはできるだけ控える

飲酒は動脈硬化性疾患の危険因子です。高血圧等では少量の飲酒であっても発症リスクが上がるため、アルコールはできるだけ控え、量や飲み方に注意しましょう。

7.食塩の摂取は6g/日未満を目標にする

食塩の過剰摂取は血圧上昇をきたし、動脈硬化性疾患の発症リスクを高めてしまいます。脂質異常症の方は血中脂質を改善すると同時に、食塩摂取量を少なくして高血圧を予防しましょう。新鮮な食材を利用し、だしの味を活かし、香辛料や酸味を利用すると、薄味でもおいしく食べられます。

8.その他

肉類を控え、米・大豆・魚・野菜・海藻・きのこ・果物などを取り合わせて食べる日本食パターンの食事は血中脂質を改善し、動脈硬化性疾患の予防が期待できます。

この日本食パターンで食塩摂取量が多くならないように注意し、さらに低脂肪乳製品を毎日摂取する食生活は、脂質異常症の改善(動脈硬化性疾患の予防)にとても理想的です。

(最終更新日:2025年5月1日)

塚原 丘美

塚原 丘美 つかはら たかよし

名古屋学芸大学管理栄養学部管理栄養学科 教授

管理栄養士、博士(医学)。徳島大学医学部栄養学科を卒業後、山口大学医学部附属病院の管理栄養士として勤務。2004年4月より名古屋学芸大学管理栄養学部管理栄養学科で管理栄養士の養成に努める。2013年4月より同教授、2018年4月より学科長。栄養管理実務者への研究指導を重視し、生活習慣病予防の食事や地域高齢者の栄養管理に関する研究や実践活動を行っている。

参考文献

  1. 一般社団法人日本動脈硬化学会、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版,2022年,東京.
    https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_3_230210.pdf
  2. 一般社団法人 日本糖尿病学会、健康食スタートブック ‒生活の質向上をめざして-,2024年,東京
    https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/kenkoshoku_startbook/kenkoshoku_startbook.pdf
  3. 厚生労働省, 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38541.html