年齢とともに、睡眠時間も睡眠の質も徐々に変化します。健康な高齢者の方でも若い頃に比較して睡眠時間は短くなり、深い睡眠の割合が減り、中途覚醒や早朝覚醒が増加します。睡眠の変化の原因は加齢だけではありません。不眠症や閉塞性睡眠時無呼吸などの睡眠障害のほか、痛みやかゆみのある病気、夜間頻尿をともなう病気、うつ病や認知症など、睡眠を妨げるからだやこころの病気にかかりやすくなります。正しい診断と、原因に合わせた対処や治療が必要です。
実質的な睡眠時間、すなわち(寝床にいる時間ではなく)脳波上で睡眠状態にある時間は加齢にともなって徐々に短くなります(図1)。睡眠ポリグラフ検査で様々な年代の人の夜間睡眠時間を調べた多数の研究があります。それらのデータを統合した研究(メタ解析研究)によれば、俗に言う「8時間睡眠」ができるのは中学生くらいまでで、20代では約7時間、40代では約6.5時間、60代では約6時間、70代以降は6時間以下になります。このように年齢を重ねるごとに実際に眠れる時間は短くなります。ただし、これらの数値はあくまでもその年代の平均値です。同じ年代でも体が必要とする睡眠時間(必要睡眠時間)には3時間以上の大きな個人差があります。自分の睡眠時間が平均よりも短い、長いと比較するのは無意味です。日々の生活の中で、起床時に十分な睡眠休養が得られていれば心配する必要はありません。

図1の説明:過去の研究報告にある3,577人分の睡眠ポリグラフデータを使った「Ohayonらによるメタ解析論文」[2]から筆者が作成。浅いノンレム睡眠、深いノンレム睡眠、レム睡眠の合計が総睡眠時間となる。総睡眠時間は年齢とともに短くなるが、その主な原因は深いノンレム睡眠とレム睡眠の短縮である。浅いノンレム睡眠は各年代を通じてほぼ一定である。
年齢とともに老眼になったり、白髪が増えたりするのと同じように睡眠にも特徴的な加齢変化が生じます。図2には睡眠ポリグラフ検査で調べた若者と高齢者の典型的な睡眠パターンを示しました。
若い人では睡眠の前半部分に深いノンレム睡眠が多く現れ、睡眠後半になるにつれて浅いノンレム睡眠が増加します。その間に約90分周期でレム睡眠が出現します。睡眠の持続性は高く、朝まで連続して眠り続けることができます。
一方、高齢者では深いノンレム睡眠が減少します。一般的に「年を重ねると睡眠が浅くなる」と言われますが、これは深いノンレム睡眠が減ることを意味しています。物音、ベッドパートナーの体動、軽い尿意などの刺激で睡眠が中断されやすくなり、夜間の中途覚醒が増加します。つまり睡眠の持続性が悪くなります。
さらに、高齢者は若い頃に比べて早寝早起きになります。睡眠だけではなく、血圧、体温、ホルモン分泌など睡眠を支える多くの生体機能リズムが前倒しになるためです。

図2の説明:一晩における睡眠段階の時間的推移(ヒプノグラム)を示す。図中では、黄色は覚醒、濃淡の青はレム睡眠および各段階のノンレム睡眠を表している。若年者では深いノンレム睡眠(N3)が夜前半に多く出現し、睡眠構造は比較的安定している。一方、高齢者では深いノンレム睡眠が減少し、浅いノンレム睡眠(N1, N2)の割合が増加するため、全体として睡眠が浅くなる。また、睡眠中の覚醒(中途覚醒、黄色)がより頻繁に出現し、睡眠時間帯も前進する(いわゆる早寝早起き)傾向が認められている。
早寝早起きは問題ないですが、中途覚醒や早朝覚醒などの不眠症状で困っているときは睡眠習慣の見直しが必要です。図3には、ある睡眠習慣調査で得られた10代から80代までの入床(就床)、起床時刻、そして寝床にいる時間(床上時間)を示しました。50代までは図1に示した実質的な睡眠時間と床上時間がほぼ同じですが、60代以降は睡眠時間が短くなるにもかかわらず、床上時間は逆に長くなっています。「眠れないままに寝床でうつらうつら過ごす時間」が長くなると睡眠の満足感が低下し、ひいては寝床で過ごすことへの緊張感が高まって不眠症状が悪化してしまうことが明らかになっています。「やることがないからなんとなく寝床に入る」のではなく、しっかり眠くなってから寝床に向かい、床上時間も実質的な睡眠時間より少し長い程度(30分から1時間程度)に抑えておくことが快眠への第一歩です。
![図3.年代ごとの睡眠習慣の変化[3]](./../../information/wp-content/uploads/bedtime-wake-time-by-age.png)
図の説明:一般生活者1,813人における睡眠習慣(就床・起床時刻、寝床にいる時間)を年代ごとに示した(筆者によるデータ)。左側の図では、横軸に時刻をとり、各年代における寝床に入っていた時間帯を表している。棒の左端が就床時刻、右端が起床時刻を示し、赤色で示した部分は寝つきにかかった時間を示している。加齢に伴って就床時刻が大幅に早まるのに比べて、起床時刻はさほど大きな変化がない(早朝に目が覚めても寝床に留まるため)。右側の図では、緑色の棒は各年代における床上時間の長さを表している。60代以降で就床時刻が早まった結果、床上時間が大きく延長している。図1で解説したように、高齢者では睡眠時間が短縮するにもかかわらず床上時間が延長する結果、眠れないままに寝床で過ごす時間が長くなり、睡眠の満足感が低下する原因となっている。
高齢者では、先に説明した睡眠の加齢変化に加えて、退職、死別、独居、施設への入所などの環境の変化や心理的なストレスによって不眠をしばしば経験します。日中の活動量が減ったり、午睡(昼寝)が増えたりすることでも睡眠の質が低下しやすくなります。また、様々なこころやからだの病気、その治療薬の副作用などによって睡眠の質は低下しやすくなります(「不眠症」を参照)。呼吸器疾患(夜間の息苦しさや胸苦しさ)、前立腺肥大や糖尿病(夜間頻尿)、皮膚掻痒症(かゆみ)、関節リウマチ(痛み)、うつ病や認知症(不眠や昼夜逆転)などが、睡眠に影響のある代表的な病気です。不眠や日中の眠気があったら、その原因を突き止めること、原因に応じた対処を行うことから治療は始まります。
高齢者がかかりやすい睡眠障害もあります。中でも閉塞性睡眠時無呼吸、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)、周期性四肢運動障害、レム睡眠行動障害などは専門医療施設での検査と診断が必要です。これらの睡眠障害にはそれぞれの治療法があり、通常の睡眠薬では治らないばかりか、症状が悪化することもあります。これらの睡眠障害が疑われる場合には、まずかかりつけの病院やクリニックに相談して、適切な専門医を紹介してもらってください。日本睡眠学会のホームページには各地域の睡眠医療認定施設や認定医が紹介されています。
認知症(アルツハイマー病やレビー小体型認知症など)では、深いノンレム睡眠が減り、中途覚醒が頻回に見られるなど同年代の高齢者と比べても睡眠の持続性がより大きく低下します。そのため、重度の認知症の方はわずか1時間程度の短時間でさえ、連続して眠ることができなくなることもあるといわれています[4]。また、認知症が進行すると、夜間の不眠とともに昼寝(午睡)が増え、昼夜逆転の不規則な睡眠・覚醒リズムに陥ることがあります。またしっかりと目が覚めきれず「せん妄」といわれるもうろう状態がしばしば出現します。このような時には不安感から興奮しやすく時に攻撃的になるため、介護の負担が増します。認知症の方の一部では、夕方から就床までの時間帯に徘徊、焦燥、興奮などの異常行動が目立つ日没症候群(夕暮れ症候群)という現象がみられます。これも睡眠・覚醒リズムの異常が関係していると考えられています。
認知症では先に紹介した閉塞性睡眠時無呼吸、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)、周期性四肢運動障害、レム睡眠行動障害などの様々な睡眠障害が合併しやすいことも知られています。特にレビー小体型認知症では睡眠障害が多く、時にはレム睡眠行動障害が認知症の発症に先駆けて出現することもあります。
認知症の方の睡眠障害の治療では、何よりも正しい診断が大事です。また、たとえ薬物療法の効果が出ても、長期間にわたり使用することはできるだけ避けることが勧められています。睡眠薬や鎮静薬を使いすぎると、眠気や誤嚥、転倒や骨折などの危険性が高まるなど不利益が大きくなるからです。認知症の方に向けた睡眠指導法を下記にまとめました。「なるべく日中に刺激を与えて覚醒させる」「規則正しい日課で生活リズムを保つ」「夜間睡眠の妨げになる原因をなくす」ことがポイントです。必ずしも即効性はありませんが、一つでも二つでもできることを実践し、長く続けてください。
(最終更新日:2026年9月15日)