昼間の眠気 – 睡眠不足だけではなく睡眠・覚醒障害にも注意が必要

令和元年に、全国から無作為に抽出した20歳以上の成人約5,700人を対象に厚生労働省が実施した国民健康・栄養調査によれば、「この1ヵ月間に、週3回以上、日中に眠気を感じた」人は、34.8%もいました。20代が43.6%ともっとも多く、年齢が高くなるにつれて眠気を感じる人は減少しましたが、70歳以上の年代でも31.1%が眠気を感じていました。眠気の原因は睡眠不足だけではありません。睡眠の質が低下する睡眠障害、持病のために服用している薬剤の副作用、うつ病などの精神疾患などでも眠気が出現することがあります。生活スタイルを見直すとともに、眠気が強い場合には診察や検査を受けて必要な治療を受けることが大切です。

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日中の病的な眠気(過眠)

夜十分に睡眠をとっているはずなのに、昼間の眠気が強く、目覚めていられない状態を過眠といいます。過眠があると、入学試験や顧客との商談中など、通常では考えられない状況で居眠りをすることもあります。居眠りや集中力の低下により、学業や仕事に支障がでるだけでなく、居眠り運転など深刻な事故につながります。本項では過眠の原因の中から、睡眠不足といくつかの睡眠障害を取り上げて解説します。

日中の病的な眠気

睡眠不足

日中に蓄積した疲労を回復し、心身のコンディションを整え、翌日の活動の準備をするために睡眠は必要不可欠です。そのため、睡眠不足が続くと昼間の強い眠気や倦怠感が出現します。数日程度の睡眠不足では眠気をはっきりと自覚できますが、睡眠不足が長引くと、むしろ眠気を自覚しにくくなることが明らかになっています。特に、運転や危険作業に従事する人は要注意です。またこどもの場合は、眠気を自覚できず、やる気や自発性が低下する、注意力や集中力が低下する、学業成績が低下する、イライラする、落ち着きがない、衝動性や攻撃性が高まるなど、行動面の問題として現れることがあります。

睡眠不足が長期間続くと、慢性的な眠気や認知パフォーマンスの低下、気分の不安定さなど、生活にさまざまな支障が出てきます。この状態は睡眠不足症候群と呼ばれています。一般的に、睡眠不足症候群では平日(勤務日)の睡眠時間が3~5時間と短く、週末(休日)に9~10時間の長い寝だめがみられます。いわゆる寝だめによって一時的に眠気が解消されても、自律神経やホルモン分泌、代謝、認知機能など睡眠不足の悪影響をすべて解消することはできません。休日の寝だめが必要な人は睡眠習慣を見直す必要があります。

また、疲労回復に必要な睡眠時間には大きな個人差があります。必要睡眠時間が体質的に長い人では、毎日6〜7時間以上眠っても睡眠不足症候群を発症することがあります。睡眠時間の長さだけで判断せず、慢性的な眠気で困っている場合には医療機関に相談しましょう。

過眠を引き起こす病気

過眠を引き起こす病気はいくつかありますが、大きく分けて「夜間睡眠の質が低下するため日中に眠気が出るもの」「脳を覚醒させる機能が低下するため眠気が出るもの」の2種類に分けられます。

閉塞性睡眠時無呼吸

夜間睡眠の質が低下するため日中に眠気が出る病気の代表が、閉塞性睡眠時無呼吸です。この病気では睡眠中に呼吸が止まってしまい、身体が酸欠状態になるため、息苦しくなって眠りが浅くなる、もしくは中途覚醒してしまいます。その後、眠り出すと再び呼吸が止まってしまうため、深い睡眠をとることができなくなります。睡眠時間がある程度確保できても、睡眠の質が悪いため昼間の眠気が出現します。

閉塞性睡眠時無呼吸では、過眠だけでなく、夜間の長時間の酸欠状態により、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の発症や症状の悪化の原因になります。さらには動脈硬化が進行して心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなったり、死亡率が増加したりするなど、健康に大きな悪影響を及ぼします。


むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)

むずむず脚症候群は、日中に眠気を起こす病気のひとつで、入眠前の安静時に手脚(特に脚)に、「むずむず」「ざわざわ」「ひりひり」するような不快感が出ることが特徴です。手脚を動かしたり、不快感のある部位に刺激を与えたりすると症状が軽くなるため、手脚を動かさずにいられない衝動に駆られます。それにより眠気があるにもかかわらずうまく寝つけず、睡眠時間の短縮につながったり、眠っても休養がとれた感覚がなくなったりします。


過眠症(ナルコレプシー、特発性過眠症)

脳を覚醒させる機能が低下するため眠気が出る病気の代表が、過眠症です。夜に十分な睡眠をとっていても昼間に眠気に襲われ、居眠りしてしまいます。ナルコレプシーは、目を覚まし続ける役割を持っているオレキシンと呼ばれる神経伝達物質を作り出すことができなくなることによって起こります。


昼間に強い眠気があり、居眠りなどで学業や仕事に支障がある場合は、睡眠障害専門の医療機関を受診して必要な検査・治療を受けることが大切です。

(最終更新日:2025年6月1日)

三島 和夫

三島 和夫 みしま かずお

秋田大学大学院 医学系研究科精神科学講座 教授

1987年秋田大学医学部医学科卒業。医師、博士(医学)。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本睡眠学会専門医。日本睡眠学会、日本生物学的精神医学会、日本時間生物学会の理事、日本学術会議連携会員などを務める。秋田大学医学部精神科学講座准教授、バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、2006年より国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。

参考文献

  1. 1. 厚生労働省
    健康づくりのための睡眠ガイド2023 INFORMATION4睡眠障害について
    https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
  2. 厚生労働省
    令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
  3. Kitamura S, Katayose Y, Nakazaki K, Motomura Y, Oba K, Katsunuma R, Terasawa Y, Enomoto M, Moriguchi Y, Hida A, Mishima K. Estimating individual optimal sleep duration and potential sleep debt. Sci Rep. 2016;6:35812.:10.1038/srep35812.