こどもの睡眠

小児の睡眠不足や睡眠障害が持続すると、肥満や生活習慣病(糖尿病・高血圧)、うつ病などの発症率を高めたり症状を増悪させたりする危険性があります。適切に対処していくには「早起き・早寝」という基本的な生活習慣から見直すことが必要です。

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こどもの眠りに黄色信号

こどもは日中に遊び回り、夕食とお風呂が済めば、重たいまぶたをこすりながらあくびをして寝床に入る。私たちのこども時代にはそれが一般的な姿でした。でも最近では、寝るべき時間に眠らない、眠くても眠れないこどもが増加しています。世界各国でこどもの睡眠問題に関する調査が行われていますが、近年は、実にこどもの4~5人に1人は、睡眠不足や夜型生活による起床困難や日中の眠気などの睡眠習慣の問題、閉塞性睡眠時無呼吸や睡眠時随伴症など、何らかの睡眠障害を抱えていることが明らかになっています[3]-[5]

こどもの睡眠時間の目安

こどもの睡眠習慣の問題の中でもっとも多いのは睡眠不足です。米国睡眠医学会は、1〜2歳児は11〜14時間、3〜5歳児は10〜13時間、小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間の睡眠時間を推奨しています。とても長いと感じる親御さんも多いと思いますが、世界各国の調査で、大部分の国々のこどもの平均睡眠時間は推奨された時間内にあることがわかっています。一方、残念ながら、日本のこどもの睡眠時間は平均すると推奨時間を下回る、もしくは下限付近です。日本のこどもの睡眠時間が短いのは、世界でもっとも睡眠時間が短いとされる親の生活スタイルの影響も大きいようです。

幼児の睡眠習慣の問題

日本小児保健協会が1980年・1990年・2000年に行った幼児期の睡眠習慣に関する調査によると、1歳6カ月児・2歳児・3歳児・4歳児・5~6歳児のすべてにおいて22時以降に就寝する割合が増加しており、こどもの生活リズムが年々夜型傾向にあることが明らかになりました。最近では夜型化に少し歯止めがかかりつつありますが、遅寝遅起きのこどもが数多く見られます。

厚生労働省が行っている21世紀出世児縦断調査では、2001年に出生した4万人以上のこどもの睡眠習慣について追跡調査を実施しています。4歳6カ月時点での最も多い就寝時刻は21時台(50.1%)、次いで22時台(21.9%)であり、21時前に就寝するこどもは5人に1人以下しかいませんでした。これは、親が残業等で帰宅が遅いことも影響しています。

このように、乳幼児期は、こどもの睡眠習慣が親の睡眠習慣に影響されやすいため、家族ぐるみで早寝・早起き習慣を目指すとよいでしょう。朝食を欠食しないことも、早寝・早起き習慣を保つうえでは重要です。

学童期のこどもたちの睡眠習慣の問題

日本の小・中・高校生は世界的に見ても最も夜更かしをしていることで有名です。いくら夜更かしをしても登校時間は同じですから、睡眠時間は短くなり、朝に起こされてもボーっとしたまま朝食も摂らずに登校し、日中には強い眠気をこらえたまま授業を受けているこどもが数多くいます。眠気のためにもうろうとして授業に集中できず、学習障害や注意欠陥多動性障害などの発達障害と間違われてしまったケースもあります。

夜更かしは睡眠不足を招きます。睡眠不足のこどもが成長とともに増加していること、その原因としてTV・ゲームなどで「なんとなく夜更かししてしまう」こどもが最も多いことがわかっています。このようなこどもたちには適切な指導が必要でしょう。

体内時計を整える必要性

不規則な睡眠習慣は生体リズムを乱します。私たちは朝に目覚めて明るい光を浴びてから約14時間後より徐々に眠気を感じるように体内時計(生物時計)がセットされています。生活リズムが不規則なこどもでは、毎日の体内時計の時刻合わせがまちまちであるため、寝つき時刻も目覚め時刻もますます不規則になっていきます。特に週末に寝坊をするこどもは体内時計を整える強い光(太陽光)を浴びる機会も逃してしまい、夜更かし型に拍車がかかります。

夜更かしのこどもは寝不足を週末に解消します。平日に比べて週末に3時間以上遅くまで寝ているこどもは睡眠不足があると考えてよいでしょう。週末に遅くまで寝ていると、その日の夜に眠れなくなり、月曜日の朝を辛い思いをして迎えることになります。

「早寝・早起き」ではなく

「早起きのコツはなんでしょうか?」

このような質問をよく受けます。「早く寝なさい! 明日起きられないよ!」お母さんやお父さんの小言が聞こえるようですが、この発想を逆転させてください。

「早寝・早起き」ではなく「早起き・早寝」から始めましょう。まず1週間、頑張って早起きをさせましょう。そして歯磨きでもしながらベランダに出て日光を浴びる。それが無理なら窓辺で顔を戸外に向けるのでも結構です(室内方向を見てしまうと体内時計の時刻合わせには不十分です)。

1~2週間ほども続けるとこどもたちの体内時計は徐々に朝型に変わり、早起きの辛さは減ってきます。早起きさせた分の睡眠時間は、早寝になった分で取り返せるでしょう。早起きから始めることで、太陽と朝食を効果的に使って体内時計の時刻合わせを行うわけです。ただし、くれぐれも週末の寝坊には注意してください。お昼近くまで寝坊してしまうと体内時計が一気に遅れ、1週間分の苦労は水の泡になってしまいます。

睡眠障害を見逃さない

こどもでも、生活スタイルや睡眠習慣の改善だけでは対処できないさまざまな睡眠障害がみられます。その代表は閉塞性睡眠時無呼吸で、小児の数%で閉塞性睡眠時無呼吸がみられます。重度の場合には、日中の集中困難や学習能力の低下がみられますから要注意です。そのほか、睡眠時遊行症(いわゆる夢遊病)や睡眠時驚愕症(夜驚)などの睡眠時随伴症、睡眠リズムが大きく遅れる睡眠・覚醒相後退障害などの概日リズム睡眠・覚醒障害、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)などの睡眠関連運動障害、アトピー性皮膚炎の痒みやストレスによる不眠症など、大人と同様にさまざまな睡眠障害がみられます。寝ている途中に呼吸が止まってしまう、眠りの質が悪い、寝入りばなや夜間に身体の異常な動きがある、日中の眠気が強すぎる、このような症状が1カ月以上にわたって続くときにはかかりつけの小児科医に相談しましょう。

睡眠と休養は健やかな成長の源

健やかな眠りがあってこそ、活発な日常生活が営めます。こどもの睡眠習慣は大人の生活スタイルを映す鏡です。家族全員で生活習慣を見直し、こどもの快眠を支えてあげてください。

(最終更新日:2025年6月1日)

三島 和夫

三島 和夫 みしま かずお

秋田大学大学院 医学系研究科精神科学講座 教授

1987年秋田大学医学部医学科卒業。医師、博士(医学)。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本睡眠学会専門医。日本睡眠学会、日本生物学的精神医学会、日本時間生物学会の理事、日本学術会議連携会員などを務める。秋田大学医学部精神科学講座准教授、バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、2006年より国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。

参考文献

  1. 厚生労働省健康づくりのための睡眠ガイド2023
    RECOMMENDATION 2 こども版
    https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
  2. 三島和夫「発達障害児が抱える睡眠問題の実態と臨床転帰との関わりに関する研究」 平成22年度厚生労働科学研究・こころの健康科学研究事業「1歳からの広汎性発達障害の出現とその発達的変化:地域ベースの横断的および縦断的研究」
  3. 三島和夫, 北村真吾, 榎本みのり, 小山智典, 神尾陽子. 発達障害児における睡眠習慣・睡眠障害に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金・こころの健康科学研究事業「1歳からの広汎性発達障害の出現とその発達的変化:地域ベースの横断的および縦断的研究」平成21年度総括・分担研究報告書. 2010.
  4. Kuki A, Terui A, Sakamoto Y, Osato A, Mikami T, Nakamura K, Saito M. Prevalence and factors of sleep problems among Japanese children: a population-based study. Front Pediatr. 2024;12:1332723.
  5. Owens J. Classification and epidemiology of childhood sleep disorders. Prim Care. 2008;35:533-546.